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リテールDX 19  「戦略 → 実装 → 未来展望」第二章「技術前提でなく、マーケティング発想で設計せよ」 ― ツール先行ではなく、戦略先行 ―

「技術前提でなく、マーケティング発想で設計せよ」

― ツール先行ではなく、戦略先行 ―

「デジタルサイネージを導入すれば、店舗もDX化できる」
──そう考える企業は少なくありません。
しかし実際には、多くの現場で設置されているのは、**DX化とは程遠い“映像を流すだけの装置”**に過ぎません。

コンテンツが一方的に再生されるだけで、顧客の行動データとも、SNSやECとも、何ひとつつながっていない。
これではデジタル化はしても、デジタルトランスフォーメーション(DX)にはなっていないのです。

本来、DXとは「デジタル技術によってビジネスを変革すること」。
つまり、データが循環し、顧客体験が最適化され、運用が自律的に進化する状態を指します。
それにもかかわらず、ツールの導入そのものをゴールとしてしまう企業が多いのが現実です。

テクノロジー導入が目的化すると、コンテンツ戦略や顧客体験の設計が置き去りになります。
「どんなメッセージを、どのタイミングで、どんな顧客に届けるか」――
マーケティングの根本的な問いが曖昧なまま、機器やCMSのスペック比較だけで意思決定が進む。

結果、現場では“使いこなせないツール”が増え、
更新頻度が下がり、デジタルであるはずの機器がアナログ以上に硬直化してしまいます。


■ 解決のヒント:DXの本質は「技術導入」ではなく「価値創出」

1. データでつながる仕組みを設計する

DXを名乗るなら、ツール間の連携は必須です。
POSデータ、SNSトレンド、天候や時間帯などの条件をもとに、サイネージの内容を動的に変える。
これが「映像が動く」ではなく「情報が動く」状態です。
DiseなどのクラウドCMSを使えば、Webキャンペーンとの自動連携も可能になります。

2. KPIから逆算する運用設計

単なる導入ではなく、「どの数値を変えたいのか」を先に設定する。
購買単価、来店頻度、会員登録率――目的に合わせたKPIを定め、
サイネージがその改善にどう寄与するのかを明確にします。

3. 運用チームを“持続型”にする

デジタルサイネージの価値は“更新”にあります。
しかし現場が手を入れられない仕組みでは、数ヶ月で陳腐化します。
テンプレート化、クラウド管理、AI補助などを活用し、
現場担当者でも運用できる“日常運用可能なDX”を設計しましょう。

4. マーケティング部門が主導する体制を

機器選定を情報システム部門に任せるのではなく、
「顧客接点をどう変えるか」を理解するマーケティング部門が中心となるべきです。
DXの本質は“システム刷新”ではなく、“顧客体験の再設計”にあります。


テクノロジーは戦略を加速させるための手段であり、目的ではありません。
本当のDXは、ハードウェアの導入ではなく、顧客にとって意味のある体験を生み出すプロセスそのものです。

映像を流すだけのサイネージではなく、
データが動き、コンテンツが最適化され、顧客との関係を深化させる仕組みへ。
それこそが、真にマーケティング発想で設計された“生きたDX”なのです。

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